■技術資格試験合格体験記

  自己の技術研鑽と行政技術者の信頼を高めるために

 〔取得した資格〕
  技術士(建設部門:土質及び基礎科目)
 〔資格取得年度〕
  平成28年度


古賀 忠直(こが ただなお)
 国土交通省 九州地方整備局
 長崎河川国道事務所
 道路管理第二課
  1.技術士受験の動機・経緯
 担当時代に当時の上司が受験されていたこととOBの方が受験願書を職場に配布されていたものをもらって興味を持ったのが始まりでした。 その頃、コンサル業務の担当者で技術士を取得されている方が的確な技術的判断を基に業務を行われていました。自分も対等で深い技術論を 議論できるようになりたいと思ったのが最初の動機です。
 また、いろいろな現場で苦労した体験を忘れないよう技術士の論文形式にその都度、文章としてまとめる勉強をしながら技術力向上に努めてきました。
 技術士となることでコンサルタントや自治体の方と名刺交換した際に、相手の信頼を得やすくなるとともに自分自身も間違ったことを言えないという 立場から今でも勉強し続けています。その結果、平成28年度の建設部門土質及び基礎の他、コンクリート、総合監理部門の河川砂防等を取得しました。
 以下に技術士試験の概要と私の勉強を進めるうえでの留意点を紹介致します。

 2.受験申込書提出時の留意点
 3年前まで5月のGW明けが受験申込書の提出期限でありましたが、2年前から連休前の4月末となっており提出時期を逃すことが あるので注意する必要があります。
(業務経歴票)
 受験申込書は筆記試験合格後の口頭試験に使われるので、記述する経歴は単なる経歴書であってはなりません。例えば「○○川の河川改修」 でなく「貴重種の○○魚に配慮した落差工の改修」など口頭試験の試験官がどのような特徴がある業務なのか解るように書く必要があります。
 業務内容の詳細に該当する欄に記入する「〇」を書き忘れることが多いことと、書く順序が現在の業務から書き始める間違えが多いので注意が必要です。
 (業務内容の詳細)
 720字以内で業務内容を記述しなければなりません。留意点として、単なる報告書のような業務概要では口頭試験の時に厳しい質問になる ことが予想されます。
 ポイントは記述した業務のどこが技術士として相応しいかを意識して書く必要があります。技術士として相応しいとは、業務の課題を整理し ボトルネックとなる問題点を抽出し、その対策について経済性、施工性等多角的に評価して具体な対策を提示する。その対策を行った結果 をフォローアップし今後の設計等に役立てることができたと記述できれば口頭試験でも厳しい質問にはなりません。
 提出前に一度は技術士の知人に添削してもらうことが重要です。

 3.筆記試験の留意点
 筆記試験は択一試験と論文試験があります。建設部門であれば国土交通白書と国土交通省のHP(各種審議会等)を参考に勉強することで 択一、論文試験双方に役立ちます。
(択一試験)
 択一試験は20問中から15問を選択し9問以上正解しないと論文の採点が行われない「足切り」となります。平成26年は受験者の約5割、 平成27年も約4割が択一で足切りとなっています。
 但し、平成30年度からは択一試験は廃止され記述式論文が復活する予定です。
(筆記試験)
 筆記試験は問題Uと問題Vがあり問題Uは原稿用紙1枚(600字)の解答を要する知識問題(4問中2問選択各1枚)と応用能力問題(2 問中1問選択2枚)が試される。原稿用紙4枚を2時間以内に解答する必要があります。
 問題Uは原稿用紙1枚を30分で書かなければならないので速やかに選択する問題を抽出する必要があります。専門外の問題も1問選択す る必要があります。
 問題Vは課題解決の能力を問われる問題と(2問中1問選択3枚)なっており2時間で原稿用紙3枚を書くことが求められます。
 いずれの問題も過去5年以内の問題から出題傾向を分析し、前年度の災害や法改正のイベント等を踏まえ問題を予想しある程度、勉強の内 容を絞ることが重要です。
 問題の指定(問題番号の記入、解答枚数等)を指示通り記述しないと失格となります。その場合、択一問題も含め一切、採点されません。

 4.口頭試験の留意点
 20分から30分以内で試験官が通常2名(1名が進行役で経歴や倫理の質問、もう1名が専門的な内容の質問と役割分担がある)の試験と なっています。4月に提出した受験経歴票の内容を確認する形で試験が進められます。試験は経歴の確認と720字以内で記述した業務内容の 詳細について試験官から試問されます。時間が20分と短いことから簡潔に答えないと時間超過で不合格となります(会計検査の応答と同じ ように聞かれたことのみ的確に答える)。
 経歴は経歴書をそのまま説明するのではなく、どのように技術者として成長したかという経歴と業務内容の詳細を3.5分程度で簡潔に説明 します。業務内容の詳細は、どこが技術士として相応しいかを説明する必要があります。
 また、技術士法の技術士の定義、3義務2責務、罰則規定等について質問されます。技術士倫理は最近の実例(杭基礎のデータ改ざん等) を例に倫理についての考えを求められます。
 口頭試験の合格率は部門、科目にもよりますが、建設部門では口頭試験受験者の80%.90%が合格します。但し、不合格となると筆記試験を 再度受験することになるため、技術士の知人に最低2.3回は模擬口頭試験をしてもらうことを勧めます。


  信頼される技術者を目指して

 〔取得した資格〕
  技術士(建設部門:鋼構造及びコンクリート)
 〔資格取得年度〕
  平成28年度


吉田 博之(よしだ ひろゆき)
 山形県 村山総合支庁 建設部
 西村山道路計画課 都市整備主査

 1.受験の動機・経緯
 「技術者が減少傾向にある中で、公共工事の品質を確保していくためにはこれまで以上に官民協働となって取り組んでいく必要があります。 そのため、技術士となって、受注者と対等な立場で協議することが重要であると考えました。また、今後さらに深刻化することが想定される 社会資本老朽化対策など、様々な事業を進めていくにあたっても、高い技術力及び技術者倫理を備えていることが証明できる資格を保持して いることは、県民の信頼を得るためにも必要であると考えました。」これが、口答試験時に回答した受験動機になります。
 上記の思いはあるものの、論文・口頭試験からなる難関二次試験については、一次試験後、忙しさにかまけて10年以上保留状態となって いました。そろそろと思い始めていた受験申し込み時期前に、山形県庁技術士会が発足し、先輩技術士から試験に向けての助言を多数もらえ たことで、受験に対するハードルが一気に下がり、挑戦してみようと試験勉強をスタートしました。

 2.筆記試験における傾向と対策
 私は、鋼構造及びコンクリートのコンクリー トで受験しました。専門知識及び応用能力に関しては、初期欠陥・劣化対策、補修・補強に関する事項は必ず出題されているため、以前取得 していたコンクリート診断士の試験対策時の資料を最新の知見で補足していくことをメインに勉強しました。
 課題解決試験は、最近のトレンドになっているメンテナンスの効率化・高度化及び生産性向上について、模擬回答を複数準備しました。準 備にあたっては、国土交通省HPの主に道路分科会の資料等を参考に、まずは課題・ボトルネックの抽出を行い、解決の方向性、具体策、その効果及び考えられるリスク・課題を多様な視 点から列挙する形でまとめ、そこから所定の文字数の論文に収めることを繰り返しました。本番では、想定とは少し違う出題でしたが、準備していた論文を出題の意図に沿わせて修正して いくような形で時間内ぎりぎりで書き上げました。
 勉強法としては、単なる知識詰め込み型では対応できないので、一つの事象に対してメカニズムから留意点やリスク・課題まで深く掘り下げ、複合的な事象も含めて体系的に知識を整理 することが重要だと思います。また、頭の中では整理できていても文字数制限のある文章にしようとするとうまくまとまらないことがあるので、試験の練習も兼ねて何度も書く練習をして おくことも有効であると思います。

  3.口頭試験における傾向と対策
 最も対策に力を入れたのが、受験願書に記載した「業務内容の詳細」に対する想定問答です。申し込み時に口頭試験を見据えた内容で記載するべしという助言をもらっていたものの、いざ 口頭試験対策を始めて見直してみると、課題解決プロセスが不明瞭であったり、分かりにくい表現等が散見されました。しかし、試験本番で分かりやすく説明できれば良いと逆に開き直っ て、想定問答を練り上げました。本番でも「業務内容の詳細」に関する質問に半分程度の時間が割かれましたが、事前対策を生かしてスムーズに回答できました。
 また、試験前に県庁技術士会と建設コンサルタンツ協会東北支部で実施してくださる模擬面接を受けて試験に備えました。場慣れや客観的な評価・助言をもらうことができ、その後の試 験対策を効果的・効率的に進めることができました。
 本番では、明確に回答できない質問もありましたが、不明瞭な説明をしないよう分からない質問には「勉強します」と回答し、分かる質問 を堂々と分かりやすく回答するよう心がけました。

 4.受験者へのアドバイス、励まし等
 資格取得による報酬や待遇面での優遇がある わけではない地方公共団体職員が、筆記.口頭試験まで長期にわたる準備・対策が必要となる技術士試験を乗り切るには、いかに高いモチベーションを保ち続けるかが重要になるかと思 います。
 公共事業に携わりより良い社会資本を整備・維持していく中で、自分の知識・経験を活かしていかに充実した議論・検討を行い、最適化を図っていくかという点は、技術者としての大き なやりがいとなるかと思います。私は、資格を取得し技術者としてのやりがいに満ちた自分をイメージすることでモチベーションを維持しました。実際に、一技術者としての奥深い知識整 理や技術者倫理等を学ぶうえで、技術士試験対策は非常に有意義であると思いますし、今後も日々自己研鑽していきたいと思っています。