よみがえれ、御所沼!
−環境再生とランドスケープ・デザインの実践記録−
本書は御所沼という、関東平野のほぼ中央に位置した湿地を主人公とする、風景の死と再生の物語です。
湿地とは、自然と人間の営みとが交差し、そこに時が堆積することで生み出された「水のトポス」にほか
なりません。御所沼は、利根川と渡良瀬川が合流する地点にあり、五代にわたる古河公方が居所を定めた歴
史のトポスでもあります。
経済発展にひた走った戦後、どの地方でも無惨なばかりの景観破壊が進みました。御所沼もご多聞に洩れ
ず、埋め立てられてしまいます。80年代の末頃、公園として沼を再生させようというプロジェクトが立ち上
がり、著者はそれに総合プランナーとして参画することになります。本書は、そこでの模索と思索と実践の
記録です。
少年期をこの地に過ごした著者自身の追憶をいきいきとした文体で甦らせ、あわせて万葉集や南総里見八
犬伝をも手がかりに、記憶世界の御所沼を掘り起こし、あたらしい物語りをつむいでいきます。
里山であり、入会地であり、名所でもある共有の空間=コモンズという理念に基づいた〈場〉の創成──
それは人と人との関係、新しい共同体の船出でもありました。貧相な合理主義による進歩という近代の原理
を問いなおす実践的な思考がここにあります。
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▽体裁: B6判・上製・カバー・252頁
▽発行: 岩波書店/定価2,625円(税込)
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